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クイズ王と対戦したIBM ワトソン(Watson)のすごいところ

「鉄腕アトムを作りたいんです.」私の所属する学科に入ってきた新入生から,しばしば聞かれる言葉です.当学科では,ロボットの研究を行っている研究室がいくつかあるため,ロボットにあこがれて入ってくる学生が多くおります.

しかし彼らの多くは,鉄腕アトムを作るために,本当に必要なことを理解していないと思われます.日本はロボット大国であり,国民のロボット愛は相当なものですから,メディアの熱の入れようも半端ではありません.しかし,多くのメディアでは,動き,形,自然言語での(疑似)会話をクローズアップするため,学生のロボットに対する理解もその域を越えません.では,鉄腕アトムを作るために,絶対に必要なこととは何なんでしょうか?

その実現に一歩近づける技術が誕生しました.それは,IBM Researchの開発したワトソン(Watson)です.本ブログでも以前に取り上げましたが,
http://e-biz.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/ibm-9bd7.html
Watsonは,アメリカのクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」で,二人のクイズ王と対戦し,勝利を収めました.しかも,このクイズはリアルタイムで出題され,答えなくてはなりません.長く,人工知能,自然言語処理を行ってきた研究者としては,これは驚愕の出来事でした.

なぜ一歩近づけるかですが,ロボットが人間らしいやり取りを行うのは,ドメインを限定し,会話パターンや,質問パターンをルール化してしまえば,ある程度可能です.さらにロボットに音声認識・音声合成の機能が備わっていれば,誰でも「おおっ~!」と思ってしまいます.ただ,その感動を得るには,ドメインが限定されているという大前提が必要です.このドメインを限定しないという制約解除が,ロボットの開発にとっては,非常に困難なのです.

Watsonは,ドメインに依存せず,人間と同じようにクイズに答えることができます.クイズの質問は,テキストデータですが,自然言語で与えられます.技術的詳細は,ここでは割愛しますが,人間が答えるのと同じ速さで答えを探索し,解を出力します.しかも,人間がコンピュータに知識を与える必要はありません(全くないわけではありませんが,ドメイン依存のルールのようなものを与える必要はない).質問を構文解析し,その解の候補を挙げ,その候補の評価を行うというのが一連の処理の流れになりますが,非構造化データであるテキストデータからこれを行うのは,非常に大きな計算コストがかかります.人間の世界のありとあらゆる知識に答えようとするならば,そのデータ量も膨大なものとなります.それをリアルタイムで答えを出すところがすごいところなのです.

こう書いても,まだいまいちその凄さが分からない方もおられるかもしれません.しかし,それは無理もありません.我々は,普段からWebを使って問題解決を行っています.分からないことがあれば,関連する単語を検索キーとして検索エンジンに入力し,出力結果のWebページを見れば,解を発見できることが多いです.Webやコンピュータシステムが,日常に溶け込んでしまっており,コンピュータで問題解決を行うということには新鮮味を感じません.

一方,ロボットは,まだ日常の生活に溶け込んでおりませんので,メディアで取り上げられれば,普段見たことがないがために,すごいと思ってしまいます.もちろん,その見た目や動きは,年々進化しており,私も驚かされるばかりですが,本当に難しいことに気づくことが難しくなりつつあるようにも思います.

Webは日常生活に溶け込みましたが,人間が読んで理解し解を得ることと,コンピュータが非構造化データから解を探索し結果を出力することには,大きな乖離があります.ロボット開発をさらに飛躍させるためには,乗り越えることが本当に困難な壁に挑戦していかないといけないと思います.

参考文献
http://www-06.ibm.com/ibm/jp/responsibility/report/
中の「日本IBM コーポレート・レスポンシビリティー・レポート2011 (2.84MB)」

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