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2010年8月

棋士は直感で局面が分かる?@JWEIN10

2010年8月20-21日に,日本ソフトウェア科学会 ネットワークが創発する知能研究会 JWEIN10に参加してきました.
招待講演
中谷 裕教 氏(理化学研究所)  「将棋棋士の駒組認識」
も非常に面白かったです.

ナレッジマネジメントの研究をしたことがあり,エキスパートの知識をどう他人に伝えるか,他者と共有するかということにトライしたことがあります.暗黙知と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが,エキスパートの方というのは,何か言語で表しきれないノウハウを持っていると思います.

例えば,投資では,トップトレーダーの方は,チャートを見ていると,気が付かないうちに売買していると言います.釣りでは,ベテランに教えてもらい,同じようにしても全く釣れないこともあります.何か,感覚に近いものが備わっているのだと思います.

将棋の世界で,このような経験をちゃんと実験したのが,この発表です.

棋譜の暗記ですが,プロ棋士はイメージで覚え,上級者4段ぐらいは完全にイメージではなく言葉で補足し,中級者はパターンに対する言葉で覚え,初心者は一駒一駒を言葉で覚える.
プロ棋士は,どの駒も覚えているが,初心者は香車と桂馬の成績が良い.なるほどなぁと思いました.

以下,聞きながらとったノートです.

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2.将棋棋士の駒組認識
棋士は直感で局面が分かる?

エキスパート共通の特徴
・意識的考えなくてもできる
・関連のある情報は一つのグループとして認識
 (人の顔を認識するのと同じ)
・10年にわたる日々の集中した意図的な訓練(1日3時間程度の訓練を10年続ける)
 エキスパートは地道な努力からしか生まれない

世界レベルの選手と町道場の上級者
黄泉の深さと広さには差はない
差は最善手が読みに含まれるかどうか?

将棋は考えるよりも直感で良い手が分かることが重要

計算機によるしらみつぶし的探索には知性は感じない

将棋の熟練度によって駒組認識の違い
同じものを見て,認識内容を書かしてみる
将棋の駒組みを5秒間提示し,記憶を3秒間保持し,将棋の板でそれを再現してもらう

定石形の譜とでたらめの譜と両方やる(50パターンずつ)

<プロ棋士>
イメージとして覚えた
頭の中の将棋盤に駒を置いた

<上級者4段ぐらい>
イメージとして覚えられる部分はイメージで
そうでない部分は言葉で

<中級者>
言葉で覚えた(やぐら囲い)

<初心者>
言葉で覚えた
「歩」がたくさんあった

記憶実験の成績
プロ棋士はほぼ100%.上級者は95%以上,初心者は60%程度

初心者の駒別の成績は,「桂馬」と「香車」の成績が非常に良い.
桂馬と香車はとなりあっていることが多い
おそらく,これは「桂馬」と「香車」の位置をペアとして覚えるようになった
すなわちパターンで覚えるようになった.

プロ棋士はどの駒もほとんど覚えている
ただし,角に関しては成績が落ちる.
角は移動量が多く,移動の多様性が高く,他の駒とペアになることがないので,
角だけ別扱いし,それ以外のものを覚えようとしたため.

上級者では角だけでなく,飛車の成績も悪くなる.
しかし,成績そのものはプロ棋士とほぼ変わらない(若干落ちる程度)

上級者がプロ棋士になれないのは,将棋の腕ではなく,忍耐力?精神力?

中級車は,初心者と同じように桂馬と香車の成績が良くなる.上級者に比べると,成績はがくんと落ちる.

でたらめなものに関しては,一気に成績が落ちる.
初心者は歩を優先的に覚える.駒の半分は歩なので,
駒の種類は記憶する必要がなく,場所さえ覚えればよい

プロ棋士は,王,飛車,角,銀を優先的に覚える.
その理由は,王,飛車,角,銀は非常に重要なので,それから覚えたとのこと
王,飛車の位置が分かれば,攻めの作戦が立てられる
角と銀の位置が分かれば,具体的な作戦が立てられる.
金,桂馬,香車の使い方は作戦に従って決まる

関連情報をグループ化
重要でない情報の無視

情報の自由度を下げる=直感

α波:記憶活動で活性化
β波:言語的表現時に活性化

記憶のステップにおいてプロ棋士はα波が増大.イメージで覚えているためベータ波はあまり活性化しない.上級者・中級車は,β波が大きい.これは言葉で覚えているため.

θ波:記憶時に活性化
駒組みの認識フェーズにおいて,初心者はθ波が活性化.プロ棋士,上級者ではほとんど活性化されない.

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「意図せず生まれる知識共有」@JWEIN10

2010年8月20-21日に,日本ソフトウェア科学会 ネットワークが創発する知能研究会 JWEIN10に参加してきました.
招待講演
折田 明子 氏(慶応大)     「意図せず生まれる知識共有」
が非常に面白かったです.

いや,ここまで個人の行動パターンが明らかになるようなサービスが提供されているとは思いませんでした.個人を特定されたくないと思っている人ほど,自分の行動履歴をブログに書きたい傾向があるという調査結果は面白いと思いました.
「知識共有」というタイトルながら,ややWebにおけるプライバシーの危険性が強調されていたように思いますが,リスクと利益をどうマネージメントしていくかという点で,大きなビジネスチャンスがあるようにも思いました.
以下,講演を聞きながらとったノートです.

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http://www.xefer.com/twitter
というサイト,いつどのくらいのポストをしたかを可視化してくれるサイト.
Twitter IDを入力すれば,OK.

Retweetによりばれる

意図せぬ情報の発信
 プライバシー問題 何を守るか コントルールするか

見方を変えれば,知識共有になる

いつ見てるのか,だれが見てるのか,どこで見ているのか
という情報が知識共有になりうる

女性に人気の記事とか,

Social Technographics profile
積極的な情報提供者はアジアに多い

創造者:ブログ作者
批評者:ブログにコメント
収集者:タグをつける
加入者:SNSなど閉じた中でプロフィールや日記を更新
観察者:他社によるコンテンツを読む
不参加者:ネットしない
加入者に焦点を当てたからSNSはヒットした.
しかし,今後は観察者に焦点を当てたビジネスが盛んになるであろう.

Yahoo!知恵袋
でなぜ人を助けるのか?
・人助けは当然
・教えたい・教える行為の面白さ
(三浦麻子・「ホントはしたい人助け」)

意図せぬ協同
自分のためのSBM記録が人のためになる(深見嘉明)「ウェブは菩薩である」

匿名志向の日本人利用者
実名は2.5%
「総務省:ブログの調査研究」

インターネットの利用での不安
・個人情報の保護の不安

個人情報保護のために何らかの対策を行っている人は70%
(「総務省:平成20年度通信利用動向調査」

匿名であるべき<==>実名であるべき
実名だと自由に意見を言えない.
身の安全も守らないといけない

実名なら誹謗中傷もない

本人到達性:人物がだれであるかを特定できる
Nissenbaum, 1999, Pfitzmann 2010)

到達性の程度を決める要素(Kobsa, 2003)
ユーザの数・規模
多様性(女性は一人しかいないグループ)

実名は到達可能で匿名は到達不可能と
考えられてきたが,実際には違う.

ハンドルネームが異なっても同一人物だと分かる
でも実名は分からないという人は多い.
しかし,何かの拍子に到達可能になることもある

名乗りとIDは異なる
IDのない名乗りは,本当にその人がいるかわからない
IDも,IPアドレス,Cookie,メールアドレス,
身分証などで異なる

どういうサービスを提供したいかでIDの確かさも異なるようにする

無意識な情報発信
・サイトにアクセスする
・投稿「していない」→寝ている?飯食ってる?
・他人によりRetweet
・位置情報の付加
・時間情報の付加
・投稿したアプリケーション

モバイルデバイス利用者調査 2009
折田明子(KDDI総研・慶応義塾大学共同研究)
モバイルユーザ・PCユーザ

情報取得目的
・お得な情報の取得
・クチコミ情報の取得
・友人の様子を知る
情報発信目的
・自分の行動や情報の記録44.8%
・友人に知らせたい24.5%
・くちこみ投稿7.4%

登録している情報
・ハンドルネーム67.6%
・年齢55%
・生年月日45.5%
・血液型45.3
・実名9.2%

発信している情報
・日々の行動61.5%
・旅行の記録34.5%

個人を特定されたくない層
それでもブログは書くしプロフィールも書く
実名の人よりもその傾向は強い
・自分の行動や情報の記録 53.5%
・口コミ投稿 13.2%

「匿名だと思っていたのに」「オトクな情報なら」
と思っている人は,意外と到達可能性が高い

オンラインでの知識共有
QAサイト
OKWave,Yahoo!知恵袋

質問履歴や投稿履歴がユーザIDにひもづけられる

毎日ランチをケータイでブログを書く
・時間
・場所:店の住所,ジオタグ
・写真:何人分か?性別?好物?

3日も書いていない?ダイエット?おなかこわした?

早起き生活をはじめよう
というサイト

http://www.sleepingtime.org
twitterのパターンから寝る時間起きる時間を可視化してくれる

明日の炊飯器の予約時刻,飛行機の便などから未来の行動すらも予測できる

自分のためが他人のためになる
ウェザーニュース
このサービス,会員になるのに有料で,しかもさらに情報を提供させられる
ただ,その分,情報の信頼性は高い

個人は大量に情報を提供している
オンラインに存在するデータを個人が扱える
ストレージのサイズは大きくなっている
デジタル情報は揮発しない

情報を出してしまったら,取り返しがつかない

Facebookのプライバシポリシー
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国際会議WWW2009論文感想その2

Thomas Karagiannis, Milan Vojnovic: Behavioral profiles for advanced email features, Proceedings of the 18th international conference on World wide web, pp. 711-720, 2009.

Microsoft Researchの研究.Microsoft Exchange serverのログを用い,100カ国にわたる100,000人以上から構成されるログを用いている.3ヵ月間の315,000,000通のメールを分析している.メールのログだけでなく,企業の組織情報(CEO, director, managerのような組織構造)も利用している.具体的には,
(1) メールの送受信の基本的な統計データ
(1日当たりの送信数,受信数,上位k人の相手がメールに占める割合,sender-receiverの組織構造における階級の差とメール数の関係)
(2) 返信に要した時間
(400の要素を持つキューを考え,そのキューにおける位置と返信に要した時間(返信時間)の関係を調べている.また,メールのデータサイズと返信時間の関係を調べている.sender-receiverの組織構造における階級の差と返信時間の関係を調べている.1日における受信メール数と返信時間の関係についても調査している)
(3) 返信確率
(メールの送信相手数と返信確率の関係,受信者から送信者に過去に送ったメールの数と返信確率の関係,共通するancestorと受信確率,前回のメール送受信からの時間と返信確率,データサイズと返信確率を調査している)
(4) 友人ネットワーク
コンタクトリスト中のユーザから2ホップ先のユーザまででネットワークを構築した時に,3か月間でその中からどれだけ新しいユーザをコンタクト先に追加したのかを調査している.
を調査している.研究としては,細かい調査を合わせ技でやってき感じである.データサイズが大きく,調査結果には文句のつけようがない.ただし,同じような調査はこれまで小規模なデータではやられている.特にメールの送受信の関係と組織の階層構造の関係は社会学で研究されてきている.良くも悪くも,データを持っている者勝ち的な論文である.
ただし,クラウドコンピューティングにおける事業者の圧倒的な優位性を確認させられる論文ともいえる.この先20年,パーソナライゼーションなどの新規サービスがビジネスの勝ち負けに影響する可能性が高く,Google, Microsoftの潜在的脅威を感じさせる論文ともいえる.

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Journal of Business Research誌論文感想

Jeffrey W. Overbya, Eun-Ju Lee: The effects of utilitarian and hedonic online shopping value on consumer preference and intentions, Journal of Business Research, Volume 59, Issues 10-11, pp. 1160-1166, 2006.
オンラインショッピングサイトにおいて,価値(value)と選好(preference),意図(intention)との関係を調べた論文である.同じことはオフラインのショップでは調査されており,本論文はそれのオンライン版である.価値とは,顧客が店(や商品)に対して持っている絶対的価値のこと.「価格は妥当なものであったか」とか「このオンラインショッピングサイトでの購入により時間が節約できたか」とかそのような比較的明示的質問によって得られる指標としている.漠然としているが,経済学の分野ではそれなりに市民権を得ている概念のようである.
価値には実用的価値と快楽的価値(買い物そのものが楽しい)があることが分かっており,この論文では,以下のような仮説を検証している.
1.価値判断はサイトに対する選好および将来の意思決定と正の関係がある.
2.サイトに対する選好は,将来の意思決定に対して正の影響を及ぼす
3.消費者の実用的価値に対する価値判断は,快楽的価値よりも強く選好と関係している
4.オンラインでの買い物頻度の多い消費者は頻度の少ない消費者よりも実用的価値が選好に与える影響の大きい(オンラインでの買い物頻度の多い消費者は頻度の少ない消費者よりも快楽的価値が選好に与える影響の小さい)
価値は,上記のような,価値に関係しそうな質問項目を著者らが考えて複数設定している.回答は7段階である.選好や意図に関係する質問も,著者らが考えて複数設定している.
通常,このように複数の属性に対する値が得られれば,それらの共起関係から因子分析により,隠れた因子を探し,それが何かを(人間が)推定するのであるが,これはあらかじめ関係する質問項目を用意しておき,隠れた因子を実用的価値であれば実用的価値と決めている.このような隠れた因子を想定している中で,質問項目がどれほどその隠れた因子と関係があるのかを統計的に導き出している.ベースとしては質問項目間の相関係数より算出している.
実用的価値,快楽的価値,選好,意図間の関係は,それぞれの質問項目間の相関から算出している.
実験結果としては,実用的価値→選好は快楽的価値→選好よりも相関が高いことを示している.また,選好→意図の相関も高いことを示している.これにより,仮説1,2,3を実証している.また,ショッピングの頻度順にわけると,実用的価値→選好は,頻度の高い被験者の方が高く,快楽的価値→選好は,頻度の低い被験者の方が低くなっている.これにより仮説4が検証されている.
あらかじめ想定している隠れた因子が,各質問項目と統計的に関係があることを立証する方法は,工学系の研究者も見ておくべきであろう.しかし,非常にあいまいな概念である「実用的価値」や「快楽的価値」を事前に想定される隠れ因子としておくのは,科学的にはやや正しい方法とは言えない.また,質問も著者がが考えたものであり,ここも科学的根拠を立証するのは難しい.
現代科学は,証明することが難しいことを解明することに突き進みつつあるが,その方法論も模索中であることを感じさせる論文である.

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